« なぜアポロ計画は継続されないのか(2) | メイン | 松下電器よ冷静に考えよ。 »

2005年02月07日

一太郎をハート形クッキーに例えて考えてみる

◆◆◆一太郎に販売禁止と在庫破棄の東京地裁判決◆◆◆


■はじめに

この話題に関しては既に各方面で取り上げられているので、今さらな気がしないでもないが、ソフトウェアの仕事に携わる者としてそしてジャストシステム社の製品の愛好者としては、やはり言及しておかなければならない話題である


■概要

ジャストシステムの「一太郎」と「花子」が、松下電器産業が保有する「情報処理装置及び情報処理方法」(特許番号2803236/1989年10月31日出願)の特許を侵害しているとして争われていた訴訟について東京地裁の高部真規子裁判長が2月1日、特許権侵害を認め製品の製造と販売の禁止及び在庫の廃棄を命じる判決を言い渡した。

今回はこの話題について私の考えるところを述べてみたい。

■問題の特許を一太郎に適用する事は妥当か

問題となっている松下の特許は出願された1989年当時には、それなりに進歩性や独創性があり特許に値するものであったと考えられる。しかし、ワープロ専用機の操作体系の一部として考案され出願された特許をGUIのOS上で動作している特定のアプリケーションに適用することが妥当とは考えにくいというのが正直な印象である。


■訴訟の対象がジャストシステムなのはなぜか

問題のヘルプモードボタン機能はジャストシステムの独自開発ではなく、MS-WindowsのAPIを利用して実現されているものである。仮にこの行為が特許侵害であれば、ジャストシステムに限らず同じAPIを呼び出している全てのアプリケーションが対象となり影響は甚大である。アプリケーションの開発者はMS-Windowsがヘルプモードボタンを作成する機能を提供していたので、その機能を利用しただけなのである。こう言った事実を考えると特許を侵害している可能性があるのはMS-WindowsのAPIであり、ジャストシステムが訴訟の対象になっているのは方向性が違うのではないかと感じる。


■ハート形クッキーを使った例え話による考察

クッキーの生地をハート形に整形する専用器具があり、ある人がこれを使い「ハート形クッキー」を焼き販売した。するとある企業の担当者が現れて「私達は『ハート形クッキー』の特許を持っています。あなたのクッキーは私達の特許を侵害しているので特許料を払って頂けませんか?」と言う。しかし、クッキーを焼いた人はクッキー生地を整形する道具として販売されていたものを買ってきて使っただけである。その成果物が特許侵害だというなら、「ハート形クッキー」を作るための器具が特許侵害していると判断するのが妥当でありクッキーを焼いた人を訴訟の対象にするのは間違っていると感じる。


■まだまだ考えは、尽きません。

その他、いろいろ本件に関連して考えている事は多数あるのだけれど、まだ考えがまとめきれていないので、また別の機会に書く事にします。


■参考文献

ジャストシステム、松下に徹底抗戦 「一太郎」販売差し止めで - CNET Japan

ジャストシステム敗訴の波紋と今後の株価の行方 - CNET Japan

ジャストシステム、松下に徹底抗戦 「一太郎」販売差し止めで - CNET Japan

CNET Japan Blog - 江島健太郎 / 「一太郎」訴訟にみるソフトウェア特許のぶざまな現状

投稿者 abiru : 2005年02月07日 23:20

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://abiru.jp/blog/mt-tb.cgi/90

コメント

 判官びいきはわかるんだが、もちつけ・x・。

・特許の妥当性について
 この裁判、特許制度と特許の内容から言って、字義解釈の上では、ジャストシステムは敗訴するのは当然ともいえる。これは特許を読めばわかることだ。
 つまり、特許自体をひっくり返さんことには如何ともしがたい。できるとすれば、前例を探すことくらいだ。

 ただし、今回の件は、ソフトウェア特許の問題点がわかりやすい形で顕在化したともいえる。はたして、ソフトウェア特許だの、ビジネスモデル特許だのが、特許を与えるべきな物なのかどうか、議論が深まることを期待したい。

・訴訟の対象について
 知的財産権関係の裁判では、ある程度絞れそうなところに的を絞り、様子見で裁判を起こす、ということは米国では普通にある。相手があまりに強いと弁護に歯が立たないし、さりとて、相手が余りに弱いとインパクトがない。ほどほどのところを訴えて、勝訴せずとも和解に持ち込めればOK、あとは、ほかの同様のメーカーに対しても同じ契約を持ち込むという寸法だ。

 ただ、これはいわゆる「特許ゴロ」が用いる戦法であり、天下の松下が行うような代物ではない。

 なお、Microsoftは訴訟の対象にならない。松下がパソコンを作っているのは周知の事実だ。そして、WindowsのOEMライセンシングにあたって、例の排除勧告を受けた特許を行使しない旨の契約を結んでいる可能性が極めて高い。また、OSは本特許の対象ではない。

 しかし、たとえMicrosoftが正規にライセンスを受けていたとしても、GIF問題で明らかになったとおり、「特許は消尽しない」(法理としてはおかしい、という意見も多い。日本では結論は出ていなかったように記憶している)。よって、松下がMicrosoftにライセンスをしたことにより、JustSystemが特許のライセンスを受けなくて良いかといえば、そんなことはない。

・たとえについて
 特許においてたとえ話は意味を成さない。特許の内容をよく検討すべし。今回一太郎が逃げようがないのは、「CADやワードプロセッシング」と分野が指定されているためだ。実際、家計簿ソフトはこの点において特許の対象にはならないということで勝訴している。

・われわれにできること
→前例を探す。
→松下の株を買って、株主としてねじ込む。
→JustSystemの売上に微力ながら貢献する。

・And one more.
 って、JustSystemの広報さんよ。Let's Noteを使っているのは、なにか新手のパフォーマンスかい?

投稿者 みねこ : 2005年02月09日 19:07

コメントありがとうございます。

>  判官びいきはわかるんだが、もちつけ・x・。

あはは!たしかにジャストシステム愛好者の私ですから終始一貫して判官ひいきですね。中学生の頃から使っている思い入れの強いソフトウェアのベンダなもんで・・・。(笑

>  つまり、特許自体をひっくり返さんことには如何ともしがたい。
> できるとすれば、前例を探すことくらいだ。

たしかに・・・。前例を提示して特許自体の無効を立証するしかジャストシステムが勝訴する方法は無いでしょうね。

>  ただし、今回の件は、ソフトウェア特許の問題点がわかりやすい形で
> 顕在化したともいえる。はたして、ソフトウェア特許だの、ビジネス
> モデル特許だのが、特許を与えるべきな物なのかどうか、議論が深まる
> ことを期待したい。

同感です。是非この機会にソフトウェアの特許に関する議論が深まる事を期待したいですね。裁判の成り行きなのは理解できますがアイコンの定義についての議論に時間が割かれている事が、個人的にはちょっと残念です。もっと将来に渡って有意義な議論を尽くして欲しい限りです。


>  知的財産権関係の裁判では、ある程度絞れそうなところに的を絞り、
> 様子見で裁判を起こす、ということは米国では普通にある。

この戦略については、どこかの記事で読みました。攻めやすい所で実績作ってそれを材料に他社にも特許料を請求するというヤツですね。まぁ、戦略としては判りますが、あまり世間の尊敬は集まらない戦法ですよね。


>  なお、Microsoftは訴訟の対象にならない。松下がパソコンを作って
> いるのは周知の事実だ。そして、WindowsのOEMライセンシングにあたって、> 例の排除勧告を受けた特許を行使しない旨の契約を結んでいる可能性が
> 極めて高い。また、OSは本特許の対象ではない。

たしか、「Windowsが特許を侵害していたとしても、訴訟を起こさない」という事に同意を求めているヤツですよね。今回の件で関連する記事を読んだ時に知りました。

それと、今回問題となっている特許が「CADやワードプロセッシング」を対象にしているというのはみねこさんからの指摘で初めて知りました。特許明細を読んだわけではなかったので、勉強になりました。
確かに「CADやワードプロセッシング」を明記されているのであればWindowsは訴訟の対象になりませんね。ジャストシステムが訴訟対象になったのも単に攻めやすい企業規模だったからというだけではなく、ちゃんと意味があったのですね。納得・・・。


いずれにしても、今回の訴訟はソフトウェアと特許の関係のあり方について考える絶好の機会ですので、この訴訟において有意義な議論が充分に尽くされ、大多数の人たちが納得できる形で和解が成立する事を祈るばかりです。

投稿者 あびる本人 : 2005年02月09日 22:49

コメントしてください




保存しますか?

(書式を変更するような一部のHTMLタグを使うことができます)