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2008年11月11日
人生の脚本、演出、演技指導
LS-CC松葉杖訓練法の存続活動に関わるようになって何度と無く聞いた言葉「エビデンスに基づいた医療」科学的なデータや確証に基づいて実施される医療ということらしい。今日、日経ビジネスオンラインで「詩と死をむすぶもの」という書籍の書評記事を読んでいて以下のような一文に出会った。
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徳永氏は、臨床を「豊かな矛盾に満ちている」と言う。現代医療は、科学的なエビデンスに基づいた医療が重視されすぎ、一人ひとりの物語に基づいた医療を忘れがちだと批判されている。だが、そのどちらか一方だけでも医療は成立しない。相反するものが共存する場所、それが医療の現場なのだ。
言葉であるものと言葉でないもの。科学的な医療と物語の医療。人の営みは、とかく矛盾だらけだ。だから生と死の境も矛盾に満ちていている。矛盾を受け容れ、「豊か」だと捉えること。それが、丸ごと一冊を通じて伝わってくる。
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「エビデンスに基づいた医療」の対義語として「一人ひとりの物語に基づいた医療」というのが興味深い。書評は、終末医療を対象に書かれているので、おそらく患者さんが今まで歩んで来た人生の物語を尊重し、物語のラストシーンの演出にどのように関われるか?というような意味合いであると理解した。
この事を踏まえて、LS-CC松葉杖訓練法の存続活動に目を戻してみたい。
現在、この訓練法を受けている子供は、まだ物語りが始まったばかりの小さな子が多い、今のところ、LS-CC松葉杖訓練法には、エビデンスとなり得る科学的データが不足している。
「一人ひとりの物語に基づいた医療」という点から言えば、小さな障碍児に対する医療や療育というのは、その子の人生の物語の企画を練り、脚本を書き、演出もして、個別の演技指導までするようなものではないだろうか。
障碍という特殊な属性を持って生まれた子の人生の物語を描くのは、非常に責任重大で高度な技能を求められる。また、これは、医療を提供する側だけの責任や能力だけでは、到底まかないきれないものだ。保護者や、周囲の人々の積極的な関与と協力が無ければ達成し得ないとも思う。
稀に「障碍を持つわが子の将来を悲観して手に掛けた」という類のニュースを耳にする機会があるが、尊厳を持って生まれた人間の人生の物語のラストシーンとして、そのような脚本・演出は、あまりにも、お粗末なのではないかとも感じた。
親も医療者も、良き脚本家、演出家であって欲しいと願わずにはいられない。